第178回 2019年11月27日(水)

テーマ:「馬と共に時代劇を支えて37年」

 

講師:田中光法(たなか・みつのり)氏

    ラングラーランチ代表、小淵沢ホースマンクラブ会長

 

 映画やテレビの時代劇に欠かせない馬たち。役者を乗せるので「役馬(やくうま)」と呼ばれる。「役馬」は、大勢のスタッフやエキストラ、大砲の音、燃え盛る炎、はためく旗など何があっても驚いてはならない。しかし大人しいだけではつとまらない。迫力のある動きもし、経験の少ない役者を乗せても、上手に見せる「演技力」も必要。そのような馬作りには高度の調教技術が要求される。日本における「役馬」作りの第一人者、田中光法さんにお話を伺いました。

 

 講師略歴:1967年東京生まれ。父君の田中茂光氏が1976年に小淵沢に開設した乗馬クラブ「ラングラーランチ」の二代目。19歳まではブリティッシュの選手として国体などで活躍、20歳でアメリカ・カナダに馬術留学、帰国後ウエスタンに転じ、競技者として優秀な成績を残す。茂光氏が馬術指導を担当した黒澤明監督「乱」の撮影に15歳で関わる。以来37年にわたって「役馬」作りと、撮影の馬術指導を続けてきた。「坂の上の雲」、「武田信玄」、「利家と松」などNHKの時代劇にも欠かせない存在。

「馬の町小淵沢」で馬コミュニティーのリーダーとしても多忙な日々を送っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは世界で初めて火の輪をくぐった時の写真ですが、これと先ほど障害を飛んでいるのは同じ馬。山梨国体で前日にレセプションがあった。全国の選手を集めた懇親会をウチでやることになった。ウチでこの火の輪くぐりを見せた。「この馬が明日国体に出ます」と言うと、皆さん「一体何を考えているんだ? 明日、大事な国体を控えた馬で何をしてんだ?」とおっしゃられた。

 

 色々な撮影をやっていく中で、馬の幅というか、どういったことができるのか、もう最初から爆破の中を走らせる事は無い、鉄砲撃つことは無いとあきらめてしまったら、たぶんその馬の能力、生涯はそこで終わってしまう。

当然競技会に出たりすることもあるだろうけど、実は馬というのはもっともっといろいろに使えて、非常に人間とコミュニケーションを取れて、能力は非常に高いんだということの一つの証明になった。

 

 よく「なぜ撮影に馬をだしているのですか」と聞かれる。日本で馬持っているんですというと、馬主さんですか?と聞かれる。本当に日本では馬の情報が少ない。その中で画面に出して、俳優さんが乗って疾走しているところを見せることで、カッコいいな、とか美しいな、気持ちよさそうだなと思うところから、馬に乗るキッカケをつくってもらいたくて、撮影に協力するようになった。

 

 日本では乗馬は特殊なものとして、お坊ちゃん、お嬢ちゃんがやるものだとか言われることがある。間違った情報の中で、もっと馬を身近に感じていただきたい。そういうところからも撮影に協力するようになった。

 

 ウチの父親が、初めて撮影に参加させていただいたのが黒澤明さんの「乱」、それから「影武者」。後にNHKの大河ドラマ「武田信玄」、これが初めてNHKに馬を提供した作品。

 ウエスタンの恰好で鉄砲を撃ったりしていたので、ある程度のことはできるという自信はあった。馬は臆病で怖がりでヒラヒラしたものは嫌い、鉄砲なんてさらに嫌いという中でやってきたことで、こんなこともできる、あんなこともできるというのが始まりだった。

 当時、僕はまだ中学生だったけど、連れて行ってもらって巨匠の作品に関われた。その時、僕らはプレーヤーで、指導というより馬に乗っていたほうだった。

 

 当時はサラブレッドが多く、クオーターやアラブなどはいなかったので、何とかするために非常に苦労もした。ただし今となってはその時のノウハウ、苦労が今の役馬を作るベースになっている。本当に昔のサラブレッドは走ることしか調教されていなくて、人が捕まえに行けば後ろ向きになって蹴ってくる、噛む、立ちあがるなど当たり前のようだった。僕たちはそれを何とかして一般のお客さんも乗せられるようにしなければいけないというところで苦労した。

 

 僕らは 癖馬の調教が上手だとよく言われる。それは今言ったように、癖馬だらけのところで馬を調教していたからこそノウハウ経験が身に着いた。

 

 その後、19歳の時、ウエスタンの協会を作ろうという話がでた。大阪のある大先生から、ウエスタンの乗馬を日本に定着させるには協会が必要だと言われ、父親と協会を立ち上げた。その時に僕はブリティッシュをやっていたわけだが、その先生に「みっちゃん、アメリカ行ってこい。とにかく本場でちゃんと習ってきて日本でスター選手になれ」と言われたのがきっかけで、ブリティッシュの競技をやめ、アメリカとカナダにウエスタンの修行に行った。そこで本物の競技をやるクオーターホースに出会った。

 

 今でも知らないがゆえにおっしゃる方がいるが、「ブリティッシュとウエスタンは全然違うよ」。ブリティッシュの人は「ウエスタンなんて・・」、ウエスタンの人は「あんな窮屈な乗り方なんて」といろいろなことをおっしゃる。これは両方をやってないから、分かり合えないところがあると思う。たまたま僕はタイミングに恵まれて両方を体験できた。調教方法などかなりトップの方に教えてもらえた。実際にやってみたら8割が一緒。クオーターとかサラブレッドとかいろんな馬を使ったところで基本的には馬。

 

 馬の品種についていうと、たとえば馬車をひく馬は身体を大きく、自重を重くしないと重いものを引っ張れない。そうやって目的に合わせて人間が品種改良をしてきたのが今の種類。クオーターホースもアメリカのカウボーイたちが自分たちの仕事に使いやすいようにと改良してきた。

 

 そういう風に種類こそ違えど馬は馬。世界中どこにいっても手綱をひけば止まる。お腹をければ前に進む。この合図も世界共通。だれもこれを示し合わせて、そういう風に調教しましょうといったわけではない。それが一番馬に適した合図調教方法だったからそういう風になっている。8割は一緒、2割は最初の目的が違っただけ。

 

 サラブレッドなら中距離を走る。肢を長くして、頭がちょっとカーっとするような品種を作った。クオーターホースは、頭がカーっとしてしまうとカウボーイたちが牛を追いかけられないので、冷静で、それでいて瞬発性があり、牛が群れから離れたらすぐ回り込める。だったら後肢をもっと鍛えようということでクオーターホースのお尻は非常に大きく瞬発力があり筋肉質。そのように目的が違っていただけ。それによってハミなどの道具も少しずつ違っている。そういう違いがあるなかで馬は馬だと僕は思っている。

 

 先日取材を受けた。NHKの番組で「カネオくん」というちょっとゲスイ、ゲスイというと失礼だけど、「この馬いくらするのですか?」とか「大河ドラマでこの馬一体どれくらい稼いでいるのですか?」とか、僕もちょっと言いづらい番組があるのですが、そこでも「役馬と普通の馬の違いを見せてください」と言われた。「どうやって役馬の調教をしているのでしょうか?それをTVの視聴者に向けて撮影させてもらうので、違いをみせてください」と。

馬を知っている人ならわかると思うが、そんな簡単なものではありません。

怖がっていた馬が今日の夕方怖がらなくなるかというと、そんなことはないんです。何年もかけてやっていることであって、それを一つの番組で見せろというのは非常に難しい。正月見て頂けると、映像として出ています。

 

 今まで何本も撮影やっているけど、何をやっているかというと、とにかく人間との信頼関係をひたすら作っている。早く覚える馬、何年もかかる馬、10年待った馬もいる。今年他界したけれど。カナダから3歳で買って来て10年間かけて、やっと一般のお客を乗せられるようになった馬がいる。その3年後くらいに「利家と松」という大河ドラマで、奧さんが内助の功で、高い10両の馬を買って来た、といって出てきたのがその馬。非常に筋肉隆々で赤っぽい栗毛。その後主役を乗せて役馬をこなした。僕も本当に涙が出た。10年待ってやっと稼ぐようになってくれたと。ふつうだったら10年お客さんに使えなければ出されてしまう。僕の場合、辛抱強いというより、あまり採算を考えないので、能力が上がるまで待ってやろう、大器晩成型もいるだろうと、ひたすら我慢しながら調教した。

 

 いったいどういうことで人間の信頼を得ているのか? 

 馬はブリティッシュ・ウエスタン色々な馬術があるが、馬に対する恐怖感、鞭を使ったり、痛みをあたえる、そういった方法でも馬はある程度調教できる。

これは正しいかというと、僕は間違っていると思っている。それは人間の子供と一緒で、何か悪いことをしたら叩かれる、怒られる。人への信頼感で言うことを聞いているのではない。人間も馬も一緒。良いことと悪いことは分けて教えてあげる。悪いことを怒るのではなく、よくできた事、あっていることはちゃんと褒めてあげる。怒る時には馬が理解した上で怒る。このタイミングはなかなか難しい。

 

 たとえば斜め横肢やりなさいと脚を使った時に、ちゃんと調教されているのに、さぼってやらない時には怒って結構。だけどその合図と動きを教えてもらっていないのに何でもかんでもやって、出来ないと怒る。これは馬にとってただのいじめでしかない。

 

 これは僕がウチのスタッフに厳しく言っていることだが、人間の感情で怒ってはいけない。馬が跳ねて落とされた、だから怒る。馬が言うこときかないからかーっとなって怒る。これは絶対にやってはいけないこと。

 

 馬がしっかりと人間を信用してから調教する。今日できなければ明日でいい、明日できなければ明後日でいい。僕は「待つ調教」と言っている。馬が理解するまで待てばいい。

 

 押し付ける必要はない、先ほども言った馬の能力の見極めも非常に大事。どの馬でも役馬になれるわけではない、どの馬でも障害1m60㎝を跳べるわけではない。外乗に出られない馬もいる。臆病で馬場の中でしか動けない馬もいる。その馬の能力を見極めた上で、調教を進めていくのは非常に大事だと思っている。

 

 今ウチのクラブには20頭の馬がいる。撮影に行ける馬は約三分の一の6頭。これだけの撮影をやっていてもその割合。その中で安全に役者さんを乗せられるのはさらに半分。

 外乗にはいけないけど、馬場の中では小さな子供を乗せられる馬もいる。それも能力。撮影で我々がエキストラとして乗れる馬、さらには役者さんを乗せられる馬、そこの見極めが非常に大事。最初から役馬ができる馬は殆どいない。色々テストをして、次第に馬の経験値をあげていく。役馬にあがるまでの経緯も非常に早い馬もいる。先ほどのバージニアという馬は撮影にも行っている。「武田信玄」の時に主役の中井貴一さんが乗った馬が実はあの馬だった。あれほど何でもできる馬は非常に少ない。

 

 ここからは撮影の話になっていくが、NHKの大河ドラマ、僕が指導するようになって来年の「麒麟がくる」で18本目になる。

 なぜ、毎年毎年ウチの馬が使われているのか?

 最初はいろいろあった。ウチの馬よりちょっと安い所がありますと。単価的に1万円ほど安いです。そちらに行ってもいいですか?とプロデューサーから。

 

 「どうぞどうぞ、是非他の所の馬も試してみてください」と答えた。

というのは、比べてもらった方が早いから。

 

 永年大河をやっているので、今の監督は助監督のペイペイの頃から知っていて、来年の大河ドラマのファースト監督になっている。毎年ウチの馬で撮影をやっていると、NHKのスタッフは、馬ってなんと賢いのだろう、何でもいうことを聞き、何でもできるんだ と思いがち。

ウチの馬しか見ていないと、その辺の良さがわからない。

 

 「是非他も使ってください。そうするとはっきりと違いがわかるので」

そうやって、今はNHKのほぼ専属になっている。圧倒的な馬の違いを分かっていただけたと思う。

 

 「麒麟がくる」でいうと、主演女優さんが不祥事を起こしてしまった。実は彼女は今年の5月から馬の練習に来ていた。最初僕は教えるの嫌だったけど、本人は頑張るといって、8月に入ってからさらに頑張って練習に1泊2日くらいで来られていた。そうは言っても鞍数でいえば20鞍乗ってない。実際には多分10鞍くらいだと思う。でも1人で馬に乗って畑の中の畔道を300mくらい走っている。これは一度もお披露目できないままお蔵入りになる映像。あれだけの着物を着て、かなりの速度で走っている。火をたいたり、煙があるセットの中でも走っている。本人の技量というより馬が勝手にやっている。

 

 37年間やっているけど、馬に怪我をさせたことがない。海外でロケをやることもある。日本は馬の頭数を揃えにくい、最大の頭数が「武田信玄」「葵徳川三代」。このとき日本で最大の80頭を使っている。「麒麟がくる」について監督と話したとき「100頭使いたい」と言っていた。80頭という記録を越えたいという野望。しかし予算が厳しくなっている昨今・・。

 

 大河ドラマは1年で50作。撮影にかける時間は1年半から2年。昔は1本1億円という予算。50話なら50億円でやっていたが、一連の不祥事など色々な締め付けもあり、今はだいたい40億円です。1本あたり8000万円。

 

 彼女が出ているのがすでに10話ある。単純に8000万円×10話とはならないけれど、来月から全部撮り直します。新たな役者さんを迎えて。その方も馬に乗れない。来週1回だけ練習に来るそうです。1日来て2鞍乗れるかなと思っている。

 

 馬は何もしなくても、上に乗っている人がバランスを崩せば落馬になる。過去にお名前は伏せるがかなりの大御所の役者さんが、80頭の馬を従えての行軍(歩くシーン)で先頭を歩く、ウチの人間が扮装して口取りで歩いていた。常歩で引馬をやっている。普通なら落ちるはずはないが、それで落ちてしまった。

これは単純にバランスを崩し、自分で戻すことなくそのまま落ちていった。確かに重い甲冑もつけている、30㎏ある。お歳も召していた。にしても落ちてしまった。僕らもこれ以上のことはできませんと言った。

 

 彼女のときは僕が現場で実際に乗って調教した。普通はスタッフで間に合い、僕が自分でやることは滅多にない。1回だけコースを走らせる。このコースだよと教える。ここに来たら止まるんだよ。その1回若しくは2回の間に馬に教えてしまう。役馬は理解が早いから、役者さんを乗せて「よーいスタート」とやると、ちゃんと決められたコースを決められた速度で走り、止まる所で止まる。その間だけバランスを崩さず乗っていていただければ、ああいった大河ドラマの映像が撮れる。

 

 本人たち、練習に来るんだけど、お腹蹴ってもなかなお腹に当たらないとか、手綱がいつの間にか長くなっているとか、色々な経験皆様もされているとおもう。一度に色々なことはできない。しかしウチの馬は速歩といえば速歩をする。駈歩といえば駈歩をする。上に乗っている人が何もしてなくてもやれる。だいたい3鞍目には駈歩までやらせる。駈歩の動きを徹底して体にしみこませる。

 

 一般のお客にこれをやると、お尻が痛くて次から乗りたくないと言われることが多いので、一般のお客にはそこまでやらないけど、彼ら彼女らは仕事としてやっているから。お尻の皮剥いて、血を出した役者さんたくさんいる。特に最近の若い役者さんは、1~2度乗せて感想を聞くと。「帰りたいです」という。なかなか練習をされなくなってきた。

 

 これは裏話だけど、来年の「麒麟がくる」の大半の役者さんが本当に練習していない。自称乗れるという役者さんが今回すごく多かった。

 

 20頭で坂を駆け下って村を襲うシーンがある。岩手でそのシーンを撮っていた。

棟梁役の方が「私は馬なんか簡単に乗れます」と言われる。

「かけ下りですよ。上りより危ないんですよ、大丈夫ですか?」とNHKの担当者が聞いたところ、「全然問題ありません」

実際に乗ってみたら、手綱こんな所で(手を上に上げる)持ってました。

それ見て監督が激怒した。実際に本人を乗せられないので吹き替えを使った。

 

 今いったように10鞍くらいしか乗ってない人が走ったり、刀を振り回したり、鉄砲撃ったり色々なことをしなければならない。そういう中で必要になるのが役馬で、人間を徹底的に信用しているから、こわがらずにその現場にいられる。 

 

 爆破にしてもそう。人間が近くにいるから大丈夫と馬が思っているだけ。

爆破を真横でやられて、普通の馬がそこにいるわけがない。爆破の瞬間にどこかに逃げるのが普通。人がそばに居れば自分たちに危害は無いと思い、鉄砲や大きな音に馬がだんだん慣れてきているから、突然爆破をやっても知らん顔している。

 

 ウチの馬、NGを出すことがたまにある。それは何故かというと、本当は驚かなければいけない所で驚かないから(笑い)

 

 これは非常に難しい問題で、本当に驚いたら役者さん落ちてしまう。爆破した時には、馬に驚いてほしいというのが監督の要望だけど。

 

 これ公開前であまりよく撮れていないが、来年の春に公開になる映画「燃えよ剣」という新選組の話。司馬遼太郎さん原作、ここに小さく岡田准一君も入っている。馬は10頭位いる。爆発が12発。砲弾を撃ち込まれて、あれだけの煙があがる。音もすごい。

僕も12連発は初めて、しかもここまで音を出すかというシーンだった。だけど馬は驚いてなくて、監督にもっと驚けないかと言われた。

 

 岡田准一君は映画「関ケ原」でも主演をやった。あの時も真横のやぐらが爆破されるが、馬が驚かなさ過ぎて監督からNGが出た。結局上に乗っている人にある程度動かしてもらった。驚いていますという動きにした。

 

 よく言われるのが「撮影に使っているのは、ただの年寄り馬なのでは?」ということ。乗馬クラブの方たちにもよく言われる。あと、あまりにも難しいシーンを撮ると、放映されたあと「あれ合成でしょ、CGだよね」とよく言われる。

 

 実際NHKの場合CGは殆ど使わない。我々の撮影は生の馬を使ってやっている。

ちょっと嬉しいのは、乗馬クラブ関係者が映像を見て、「こんなこと普通の馬ではできないものね」といっていること。僕は心の中で小さくガッツポーズ、だれにも真似できないだろうと、自己満足でやっている。

 

 大河ドラマでいうと「真田丸」、あれでCGではなく、馬マシンというものを使った。

走っている所で役者さんの表情のアップは撮れない。そういう時にマシンを使う。

軽トラの荷台に木で作られた「箱馬」をおき役者さんが跨って、上でハ~とか言いながら撮影する。これが大半。だけど、これは馬に乗ってないなというのが結構ばれる。特に馬乗りから見ると。本当に乗れる人は軽トラの上の箱馬に乗っても、馬の動きが分かっているから、自分でリアルに身体を動かせる。乗れない役者さんが、軽トラの上でやると、まったく違う動きになってしまうことがある。

 

 日本では大半がこの箱馬だったが、今から10年くらい前に、「忍び」という映画、仲間由紀恵さんの映画だったけど、そこで初めて、頭のついたタテガミもついた馬の形をしたマシンが使用された。

 

 実際には馬の下に助監督が入って、馬の首が動くように手動で動かしていた。

それ以来、ずっと使われている。まあまあリアルに映る。

ところが「真田丸」のときには、さらに上をいくのを使った。堺雅人さん主演だった。堺さん実は1年も前から練習に来ていた。

 

 「ハリウッドはお金があるから、馬マシンをリアルに作るのですよ、自走はしないけどレールの上を走らせ、馬の首や目が動く」と言ったら、「それって高いんですか?」と聞かれた。アニマトロニクスというもので、一億円は超えます。

 

 一ヵ月後くらいに、堺さん、プロデューサーに「私が馬マシンを買います、だから作りませんか?」とおっしゃられた。プロデューサーも「ありがとうございます」と言うわけにもいかず、何か方法は無いかということで、ハリウッドからそのマシンをよんで半日撮影に使った。二人のオペレータがついてきて、半日使っただけで500万円だったけど。

 

 日本人が作って手動で動かしているのが1日17万円。僕らが手塩にかけて育てた馬が実は1日5万円。

僕はその時にも言った。「なぜ生馬が一番安いのですか?」「すごい時間をかけて作ってきた馬が一番安いのはどういうことだ?」

まあそこは、NHKさんとの長いお付き合いの中でやっていることなので・・

 

 本当に朝一番から夜まで、馬たちは一生懸命仕事をしています。僕たちは、現場についていき世話をする。馬は生き物だから、その日の機嫌がある。テストをやっている間にだんだんへそまげてきたりとか、じっとしているシーンが続くと飽きてしまったりとか、そういった馬の感情を見ながら、その時その時にあわせた調教を僕らが現場でやる。

 

 「歳とってる馬では、とか、ただ大人しいだけの馬では」と乗馬クラブの人に言われることがある。実際には10歳以下の馬もたくさんいる。4歳から役馬できた馬もいる。走ったり、障害を飛んだり、役馬は色々なことができなければならない。

 

 僕はたまたま障害もウエスタンもできる。それをうまく融合させてトータルな役馬を作っている。先ほど言ったように8割は一緒、あとは馬の性格を見ながら、この馬はこういうことが得意だとか、この馬にはこれが無理なんだとか、ということをやりながら、調教の方法を常に考え、色々な事を試しながらやっている。

 

 53歳になるが、これだけ馬をやっていても、まだまだ勉強している。今の僕が持っているノウハウに当てはまらない馬が必ず出てくる。そういう時にまた新しい方法を考え出す。馬の能力以上のことをやらせるのは虐待。少しでも能力を伸ばそうとするが、限界をしっかり見極めてやる。

 

 馬術界の人に失礼な事をいうようだが、障害だけをやる馬を作るのはそんなに難しいことではない。一つのことだけを調教していればよいから。役馬はいろいろな事をやらなければならない、頭が良く能力が高くなければならない。

 

 先ほどのバージニアという馬は、その点では、馬の可能性をすごく上げてくれて、いろいろな事を気づかせてくれた馬。その後をついだクオーターやサラブレッドがいる。確率は少ないけどサラブレッドで役馬になれた馬は何頭もいる。

肉屋に行く途中でウチに寄った馬もいる。癖があるからということで出されたのだが、乗ってみたら大した癖では無かった。簡単に直せるなと思って拾ってあげた馬が、実際に役馬にまでなった。そういう馬は何頭もいる。人間不信に陥っていた馬、乗馬クラブで使えない馬が何頭もいる。腹帯を締めると、それだけで後ろにひっくりかえってしまう馬もいた。

 

 信頼関係を築けば、馬の能力を上げられると僕は思っている。

 

 馬に乗ることは、はるか昔から行われている。それはなぜかというと、馬は人間と一番コミュニケーションをとれる動物だから。ラクダや象に乗る国もあるけれど、大半の国で大昔から馬に乗っている。

 

 乗馬を楽しむ方、馬術をなさる方、馬との関係をキチンと築くことにより、馬の能力を上げてあげられる。そういうところで皆さんが馬に乗れば、馬も皆に可愛がられるようになる。と僕は信じています。(了)

 父親は福島の相馬生まれで、馬に乗っていた。大の西部劇ファンで自分たちの遊び場を作りたかった。乗馬クラブをやろうと思って小淵沢に行ったわけではない。狩猟も好きで行ったところが小淵沢だった。西部劇のシェーンで、最後に「シェーン、カムバック」という有名なシーンがある。南アルプス連峰をみると、映画にでてくるあの山に似ていると勝手に言って、東京でやっていた会社を捨てて小淵沢に移住してしまった。僕は、小学校に上がるくらいで、東京生まれのもやしっ子だった。

 

 家族そろってユウカリ牧場というところにお世話になった。

そこから小学校に通うのに片道6㎞、舗装道路が殆どなく殆ど登山道路だった。

その道を歩いた。当時は冬になると30~50㎝の雪が降った。そんなときはとても6㎞歩けず、実は馬に乗って学校に通っていた。学校はそれを許してくれて、鉄棒につないでおいて、またそれに乗って帰る。

 

 幼稚園からみな一緒に上がってきた田舎の学校、東京から来た奴が何か変わったことやっているぞと、その当時はだいぶいじめられた。当時でも馬で学校に行くのは当たりまえのことではなかった。小淵沢は周りに何も無く、駅は登山をする人が降り立つ程度だった。

 

 皆さん僕のプロフィールを聞いて、「贅沢ですね。そんな子供のころから毎日馬に乗って」と言われるが、それしか遊びが無かった。

 

 そんなことから馬に乗るようになったのだが、当時は今みたいに、日本にはなかなか良い馬がいなかった。今は海外から色々入ってきて安全な馬が増えたが、当時は競走馬上がりの馬くらいしか日本にはいなかった。

 

 その中で、ウチの父親は西部劇ごっこをやりたいので、サラブレッドであろうが何だろうが、とりあえずカウボーイハットを被って乗っていた。腰にピストルぶら下げて、鉄砲撃ったり、インディアンや騎兵隊の恰好をしたりして遊びたかった。サラブレッドが鉄砲を頭の上で撃たれる、旗を振り回される、ヤリは持ってこられるといった状況で、そんなに簡単ではなかった。

 

 皆さんも馬がどういう動物かお分かりだと思うが、かなり臆病で、その中でもサラブレッドは神経質だったり気が強かったりする。そういう馬しかいなかった。西部劇ごっこをするために、何とか調教しなければいけないというところから始まったのが、撮影に馬を提供する原点になった。

 

 通常の乗馬クラブなら、刀やヤリを振り回すとか、爆破するとか、そんなことしなくていいよと諦めてしまっていただろう。今日本では大河ドラマを含め色々な撮影に馬をだしているのは、ほぼウチとあと数件のクラブになっている。

そういう馬を作るのには非常に手間と時間がかかる。非常に効率が悪い。

役者さんが乗って、爆破の中だろうが、周りでヤリを振り回そうが平気でいられる馬というのは、本当に数百頭の内の1頭なのです。

 

 僕は4歳から馬に乗っている。もうすぐ53歳になる。撮影の仕事は37年やっている。50年近く馬に乗り、それで撮影をやっていても、役馬まで育て上げるというのは、本当に効率が悪い。どの馬でもそこに行けるわけではない。

もちろん調教も同じではない。これだけの知識をもってしても、今言ったように数百頭のうちの1頭というのが現状。

 

 写真をお見せする。僕と別人ではと言う人が多いが、お腹がへこんでいるころ、19歳で山梨国体に出たときのもの。バージニアという馬でアングロアラブです。当時はJRAでアングロアラブのレースがあった。今は無い。実はこの馬、肉屋さんから買った馬です。

 

 僕が小学校5~6年のときウチに来て僕が調教した。最終的に1m60を飛ぶ馬になった。

フリーダム・ライディング・クラブ 

Freedom Riding Club

〒222-0032 

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